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広島高等裁判所 平成8年(ラ)79号 決定 1996年10月01日

抗告人(債務者・以下「債務者」という)

有限会社キング

代表者取締役

棚田克紀

代理人弁護士

三浦諶

中村覚

堀勉

相手方(債権者・以下「債権者」という)

中国小松ビッグ株式会社

代表者代表取締役

丸山昌輝

第三債務者

代表者

広島法務局供託官

上山本一興

主文

原決定を次のとおり変更する。

1  債権者の申立てにより、別紙請求債権目録記載の債権の弁済に充てるため、別紙請求債権目録記載の執行力のある債務名義の正本に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。

2  債務者は、前項により差し押さえられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。

3  第三債務者は、第1項により差し押さえられた債権について債務者に対し弁済をしてはならない。

4  債権者は、広島地方裁判所平成八年(ヨ)第一七八号債権仮差押決定による同事件債権者棚田克紀のための債権仮差押が解除されるまで、第1項により差し押さえられた債権について取立てをしてはならない。

5  債権者のその余の申立てを却下する。

6  訴訟費用は、原審、抗告審を通じこれを二分し、その一を債権者の、その余を債務者の負担とする。

理由

1  債務者の本件執行抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状に記載のとおりである。

2  一件記録によれば、次の事実が認められる。

債権者は、平成八年七月四日山口地方裁判所岩国支部に対し、別紙請求債権目録記載の債権を請求債権として、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権の差押命令及び転付命令の申立てをし、同年七月九日同裁判所はこれらの申立てをいずれも認める決定をした。同請求債権は、広島地方裁判所平成三年(ワ)第一〇九号損害賠償請求事件の執行力ある判決正本に表示された債権であるところ、同債権については、平成八年五月三一日広島地方裁判所が、棚田克紀を仮差押債権者とする債権仮差押決定(平成八年(ヨ)第一七八号)がなされていた。そこで債務者は、二重払いを強いられる可能性があるとして本件抗告を申し立て、右仮差押決定の写しを提出した。

そこで、本件事案に即して検討するに、有名義債権が仮差押されている場合にその有名義債権の債権者は債権執行をなしうるか、またなしうるとして手続きのどの段階までなしうるかに関して、民事執行法及び民事執行規則に規定を見いださないので、この問題は債務名義、仮差押、債権執行などの関連する諸制度の趣旨を考慮にいれて解決せざるを得ない。しかして、有名義債権の債権者は本来であれば債務名義に基づき債権差押えをなし、これに伴い被差押債権が金銭債権であるときは民事執行法一五五条にしたがいその取立てをなすことができるし、またさらに債権差押に伴せて転付命令を得て請求債権の満足を得ることができるのであるが、仮差押えを受けているため被差押債権の取立て又は転付命令を得るという満足的な手続きに及ぶことは仮差押えの趣旨に反して許されず、債権差押えをした段階を越えて手続きを進めることはできないものと解せざるを得ない。このように解しても、第三債務者は必要であれば民事執行法一五六条に基づき供託することができるのであるから特段の不利益を蒙ることはないのでこの点からも上記の解釈を相当と考える。

上記の趣旨から、本件債権差押え及び転付命令の申立てのうち債権差押えの申立ては認めるべきであるが、それに伴う民事執行法一五五条に基づく金銭債権の取立ては仮差押えが解除されるまではこれを禁ずることとし、本件転付命令の申立ては却下することとする。

3  よって、原決定を変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官東孝行 裁判官古川行男 裁判官西垣昭利)

別紙請求債権目録

広島地方裁判所平成三年(ワ)第一〇九号損害賠償等請求事件の執行力ある判決正本に表示された下記金額。なお、同事件の広島高裁平成六年(ネ)第三六五号事件は平成八年五月一六日控訴棄却となり確定した。

(1) 元本 金一四、四〇四、〇〇〇円

(2) 遅延損害金 金四、一四九、〇三一円

ただし、上記(1)の内金一三、二七四、〇〇〇円に対する平成二年四月一日から平成八年七月一日までの年五分の割合による遅延損害金

合計金一八、五五三、〇三一円

別紙差押債権目録

金一八、五五三、〇三一円

ただし、債務者が第三債務者に対して有する下記債権で、頭書金額に満つるまで

債務者が債権者と債務者間の広島地方裁判所平成六年(ウ)第一三三号強制執行停止決定申立事件につき保証として平成六年九月一三日第三債務者に供託した広島法務局平成六年度金二一一六号金一〇〇〇万円の供託金取戻請求権及び前記供託金に対する平成六年九月一四日から同八年七月一日までの利息請求権との合計額のうち頭書金額に満つるまで。

別紙執行抗告状

山口地方裁判所岩国支部平成八年(ル)第一九五号、平成八年(ヲ)第七七号債権差押え及び転付命令申立事件につき、同支部が平成八年七月九日に言渡した債権差押え及び転付命令に対し、執行抗告をする。

抗告の趣旨

原決定を取り消し、被抗告人の債権差押え及び転付命令の申立を却下する裁判を求める。

抗告の理由

1 本件債権差押え及び転付命令における債務名義たる広島地方裁判所平成三年(ワ)第一〇九号損害賠償請求事件の執行力ある判決正本に表示された債権(以下、「請求債権」という。)については、訴外棚田克紀が平成八年五月三一日これを仮差押をしている。

2 よって、被抗告人は、上記仮差押により、請求債権について取立が禁止され、抗告人は請求債権について支払をしてはならない状態となっている。

3 なお、上記仮差押が存在することは、本件執行上の障害事由に該当する。

すなわち、本件強制執行により、抗告人は被抗告人と仮差押債権者である棚田克紀とに二重払を強いられる可能性がある。特に、転付命令は転付債権者が弁済を受けると同じ機能を持つものであり、仮差押の財産の現状を保全するという効力を無効化するものである。

疎明資料

甲第一号証 仮差押決定(写)

甲第二号証 最高裁判例解説昭和四八年度第六一「債権に対する仮差押の執行と当該債権についての給付訴訟」

平成八年七月一五日

抗告人代理人

弁護士 三浦諶

弁護士 中村覚

弁護士 堀勉

広島高等裁判所 御中

別紙<省略>

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